
めっき・アルマイト・熱処理の基礎と使い分け
はじめに
金属部品の設計や加工では、「どの材料を使うか?」に加えて、「どんな表面処理を施すか?」も非常に重要な判断ポイントです。
耐食性、硬度、外観、耐摩耗性、導電性… こうした性能を高めるために行うのが表面処理です。
この記事では、現場で特によく使われる以下3つの処理を中心に、 それぞれの特徴・効果・適した用途を実践的に解説します。
めっき(電気めっき、無電解めっきなど)
アルマイト処理(陽極酸化処理)
熱処理(焼入れ、焼戻し、浸炭など)
表面処理の目的とは?
金属に表面処理を施す目的は大きく分けて以下の5つ
目的 | 具体的な効果 |
① 耐食性向上 | サビや腐食を防ぐ(屋外・水回りなど) |
② 耐摩耗性向上 | 表面を硬くし、すり減りを防ぐ |
③ 外観の改善 | 装飾性・ブランド価値向上(色、艶など) |
④ 機能付与 | 電気伝導性・絶縁性・潤滑性など |
⑤ 耐熱性・硬度UP | 高温や衝撃に耐える性能を付与 |
同じ素材でも、適切な表面処理を施すだけで、寿命や性能が大きく変わることは少なくありません。
めっき処理|見た目+防錆+機能を手軽にプラス
概要
「めっき(メッキ)」とは、金属の表面に別の金属を薄くコーティングする処理。 目的によってさまざまな金属(亜鉛、ニッケル、クロム、金など)が使われます。
種類と効果
めっき種別 | 特徴 | 主な効果 | 用途例 |
亜鉛めっき | 安価で広く使われる | 防錆 | ボルト、ナット、屋外金具 |
ニッケルめっき | 耐食+光沢あり | 装飾+防錆 | 家電、装飾金属 |
クロムめっき | 硬度が高い、耐摩耗性◎ | 表面保護、美観 | 自動車部品、水栓金具 |
無電解ニッケルめっき | 均一な膜厚が得られる | 寸法精度が必要な機能部品に | 精密機構部品、金型 |
加工上の注意点
電気めっきは形状により膜厚ムラが出やすい
アルミやステンレスは事前の下処理が必須(直接めっきが乗らない)
クロムめっきは環境規制に注意(RoHSなど)
アルマイト処理|アルミ専用の酸化皮膜で耐食性アップ
概要
アルマイト処理(陽極酸化処理)は、アルミニウムの表面に人工的に酸化皮膜(Al₂O₃)を形成する処理です。 この皮膜は透明で硬く、着色も可能。
特徴と効果
処理種別 | 特性 | 主な効果 | 用途例 |
普通アルマイト(白) | 耐食性UP、表面硬化 | アルミの基本処理 | 機械カバー、構造部品 |
着色アルマイト | 表面を美しく着色可能 | 装飾性UP | 製品ロゴ、ノブ、外装品 |
硬質アルマイト | 通常の2〜3倍の皮膜厚 | 耐摩耗性◎、高硬度 | スライド部、摺動部品 |
加工上の注意点
アルミ合金の種類によって色ムラ・反応の違いが出る
切削後に処理すると公差が変わるため、寸法設計に注意
表面に微細な穴が空いているため、染料や油が染み込むこともある
熱処理|金属の内部構造を変えて、硬度や靭性をコントロール
概要
熱処理は、材料全体に熱を加えて、強度や硬度・靭性などの機械的性質を変える処理です。 鉄鋼材料や工具鋼によく使われます。
種類と効果
処理種別 | 温度帯 | 効果 | 主な用途 |
焼入れ(焼き入れ) | 高温→急冷 | 硬くなる(が脆くなる) | シャフト、刃物、ギア |
焼戻し(焼きもどし) | 焼入れ後に再加熱 | 靭性を持たせる | 衝撃を受ける部品全般 |
焼なまし(アニール) | 600〜800℃ | 軟化・応力除去 | 加工前の素材処理 |
浸炭処理 | 高温+炭素ガス雰囲気 | 表面だけ硬くして芯部は靭性維持 | 歯車、ピン、カム |
加工上の注意点
熱処理後は寸法変化や歪みが出やすいため、仕上げ加工は後段で行うのが一般的
浸炭焼入れは、複雑形状の部品ではコントロールが難しいため、経験値が重要
材料によっては熱処理できない鋼種もあるので事前確認が必須
表面処理の比較表|どの処理がどんな効果に強い?
処理種別 | 耐食性 | 硬度UP | 美観 | 寸法精度 | 備考 |
亜鉛めっき | ◎ | △ | △ | △ | 安価、防錆重視向け |
ニッ ケルめっき | ◎ | ○ | ◎ | △ | 装飾と防錆の両立 |
アルマイト(普通) | ◎ | △ | ○ | ○ | アルミ専用、色もOK |
アルマイト(硬質) | ◎ | ◎ | ○ | △ | 摺動部にも対応 |
無電解ニッケル | ◎ | ○ | △ | ◎ | 寸法精度が必要な部品に◎ |
焼入れ+焼戻し | △ | ◎ | × | △ | 鉄鋼部品の強度UP |
浸炭焼入れ | △ | ◎ | × | △ | 表面のみ硬化、芯は粘り強さ保持 |
まとめ|表面処理の理解が設計と加工の質を大きく高める
金属部品の性能や寿命は、材料選定だけでなく、適切な表面処理に大きく左右されます。 同じS45Cでも、「そのまま使う」のと「焼入れ+焼戻し」をするのとでは、まったく別物の部品になります。
✅ 若手技術者が押さえるべき表面処理の考え方
防錆目的 → めっき or アルマイト(アルミ)
高硬度・高耐摩耗 → 熱処理 or 硬質アルマイト
寸法精度が重要 → 無電解めっきや後加工を考慮
美観が重要 → クロムめっきやカラーアルマイト
製品の品質やコスト、耐久性を左右する「表面処理」は、設計段階から考慮するべき重要な要素です。 ぜひ現場での選定・指示出しにお役立てください!