ステンレス鋼(SUS材)
ステンレス鋼は耐食性や耐熱性に優れる合金鋼で、JIS規格ではSUS304、SUS316などが代表例です。食品加工機器や建築内装、医療器具に多用されます。

ステンレス鋼の種類(JIS規格および代表的なもの)
ステンレス鋼は高い耐食性や耐熱性、多彩な機械的特性を持ち、建築材、食品設備、化学プラント、自動車部品など、幅広い分野で利用されています。本記事では、JIS規格で分類されるステンレス鋼の種類とその代表例を解説します。
1. オーステナイト系ステンレス鋼(300番台)
オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性、成形性、溶接性に優れ、最も広く使用される種類です。
SUS301:
SUS301は、加工硬化性が高く、成形後に高強度が求められる用途に適しています。
特性: 加工硬化性に優れ、成形後の強度が向上。
用途: 自動車部品、鉄道車両、コンベヤベルト。
SUS304:
SUS304は、18%のCrと8%のNiを含む最も汎用的なステンレス鋼です。
特性: 高い耐食性、加工性、溶接性。
用途: キッチン用品、建築外装材、化学プラント。
SUS316:
SUS316は、モリブデン(Mo)の添加で耐孔食性が向上しています。
特性: 耐酸性が高く、海水環境に適合。
用途: 化学装置、食品加工機器、医療用機器。
2. フェライト系ステンレス鋼(400番台)
フェライト系ステンレス鋼は、磁性を持ち、耐食性が高いが溶接性や延性はやや劣ります。
SUS430:
SUS430は、家庭用製品やキッチン用品で広く使用されるステンレス鋼です。
特性: 磁性を持ち、コストパフォーマンスに優れる。
用途: 家庭用電化製品、キッチン用品、建築内装材。
SUS444:
SUS444は、Moを添加し耐孔食性と耐応力腐食割れ性を高めた鋼種です。
特性: 耐孔食性が高く、塩水環境にも適応。
用途: 給湯機器、熱交換器、屋外設備。
3. マルテンサイト系ステンレス鋼(400番台)
マルテンサイト系ステンレス鋼は、焼入れ処理により高い強度と耐摩耗性を実現します。
SUS410:
SUS410は、強度と耐摩耗性のバランスが良く、幅広い工業用途に適しています。
特性: 焼入れ可能で高い機械的特性。
用途: 工具、タービンブレード、バルブ部品。
SUS440C:
SUS440Cは、マルテンサイト系で最高の硬度を誇ります。
特性: 高硬度と耐摩耗性。
用途: 刃物、ベアリング、計測器部品。
4. デュプレックス系ステンレス鋼
デュプレックス系ステンレス鋼は、オーステナイト系とフェライト系の特性を併せ持ちます。
SUS329J1:
SUS329J1は、高強度と高耐食性を兼ね備えています。
特性: 耐応力腐食割れ性に優れる。
用途: 化学プラント、海洋構造物、配管材。
SUS329J4L:
SUS329J4Lは、さらに耐食性を向上させた鋼種です。
特性: 耐孔食性と高強度。
用途: 海洋機器、石油化学産業、建築構造材。
5. 析出硬化系ステンレス鋼
析出硬化処理による高強度化と耐食性を両立したステンレス鋼です。
SUS630(17-4PH):
SUS630は、析出硬化処理で高強度を実現し、精密加工が可能です。
特性: 高強度と耐食性。
用途: 航空機部品、化学装置部品、バルブ。
SUS631(17-7PH):
SUS631は、高い耐疲労性と強度を兼ね備えた鋼種です。
特性: 耐疲労性と高い成形性。
用途: スプリング、航空機部品、精密部品。
代表的な用途別グループ
オーステナイト系
SUS304: 汎用的な用途。キッチン用品や建築外装材。
SUS316: 耐孔食性が重要な化学プラントや食品加工機器。
フェライト系
SUS430: 家庭用電化製品やキッチン用品。
SUS444: 耐塩水性が必要な給湯機器や屋外設備。
マルテンサイト系
SUS410: タービンブレードやバルブ部品。
SUS440C: 高硬度を要する刃物やベアリング。
デュプレックス系
SUS329J1: 海洋構造物や化学プラント。
SUS329J4L: 高強度が必要な建築構造材。
析出硬化系
SUS630: 航空機部品や化学装置。
SUS631: 精密機器やスプリング。
各ステンレス鋼の性質・用途
SUS302:
SUS302は、SUS304と類似した化学組成を持ち、炭素含有量をわずかに増やすことで強度を向上させたオーステナイト系ステンレス鋼です。この特性により、ばねや締結部品、航空機部品など、機械的強度が必要な用途に適しています。一方で、耐食性はSUS304にやや劣るため、使用環境に応じた選択が必要です。
SUS304L:
SUS304Lは、SUS304の低炭素版で、特に溶接後の耐粒界腐食性が大幅に向上しています。この特性により、溶接を伴う化学プラントや食品加工装置での使用に適しています。また、SUS304と同様の耐食性を持ち、幅広い用途に対応できます。
SUS309S:
SUS309Sは、耐熱性と耐酸化性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼です。特に産業炉や高温ガス環境で使用される部品に適しています。酸化防止が重要な条件下で、長期間の耐久性を発揮します。
SUS310S:
SUS310Sは、SUS309Sよりさらに高い耐熱性を持つオーステナイト系ステンレス鋼です。工業炉の構造材や煙道ガス装置、熱交換器など、極めて高温の環境で性能を発揮します。また、優れた耐酸化性により、高温下でも安定した性能を維持します。
SUS316L:
SUS316Lは、SUS316の低炭素版で、溶接性がさらに向上したオーステナイト系ステンレス鋼です。化学プラントや海水環境、医療機器など、溶接を伴う環境でその特性を発揮します。また、高い耐孔食性と耐酸性により、過酷な条件下での使用が可能です。
SUS321:
SUS321は、チタン(Ti)を添加することで耐粒界腐食性を向上させたオーステナイト系ステンレス鋼です。この特性により、高温環境での耐久性が求められる配管やボイラー部品、航空機部品で使用されています。溶接後の耐食性が必要な用途にも適しています。
SUS405:
SUS405は、SUS410を改良したフェライト系ステンレス鋼で、溶接性が向上しています。耐熱性と耐酸化性を持ち、ボイラーや熱交換器の部品として使用されます。コストパフォーマンスにも優れているため、工業用途で広く採用されています。
SUS416:
SUS416は、被削性を向上させるために硫黄(S)を添加したマルテンサイト系ステンレス鋼です。機械加工性が優れており、自動車部品や精密な機械部品、ボルトやナットなどの用途で利用されています。硬度と耐摩耗性を兼ね備えていますが、耐食性はやや劣ります。
SUS420J1/J2:
SUS420J1およびSUS420J2は、高硬度と耐摩耗性を特徴とするマルテンサイト系ステンレス鋼です。刃物や医療用器具、工具、計測器部品などの用途で使用されます。また、焼入れ処理によってさらなる硬度を得ることができ、機械的強度が求められる場面で重宝されます。
SUS434:
SUS434は、モリブデン(Mo)を添加することで耐食性を強化したフェライト系ステンレス鋼です。特に塩分を含む環境での耐久性が求められる自動車の排気系部品や、屋外設備、建築材料で使用されています。また、高い耐食性と成形性が求められる用途にも適しています。
SUS447J1:
SUS447J1は、フェライト系ステンレス鋼の中でも非常に高い耐酸性を持つ鋼種です。排煙脱硫装置や化学プラント、厳しい腐食環境下で使用される設備に適しています。長期的な耐久性と高い耐孔食性が要求される用途で信頼性を発揮します。
SUS329J1:
SUS329J1は、デュプレックス系ステンレス鋼で、オーステナイト相とフェライト相の両方の特性を併せ持ちます。高い強度と耐孔食性、耐応力腐食割れ性を備えており、化学プラントや海洋構造物、配管材として使用されています。
SUS329J3L:
SUS329J3Lは、SUS329J4Lと同様に高い耐孔食性を持ちながら、さらに優れた耐応力腐食割れ性を持つデュプレックス系ステンレス鋼です。化学プラントや海洋環境での使用に最適で、長期間の耐久性を提供します。
SUS630(17-4PH):
SUS630は、析出硬化処理によって高い強度と耐食性を実現する析出硬化系ステンレス鋼です。その精密加工性により、航空機部品や化学装置部品、バルブなどの用途に適しています。耐久性が求められる環境での使用に最適です。
SUS632J1(15-5PH):
SUS632J1は、析出硬化系ステンレス鋼の中でも高い耐疲労性と耐食性を持つ鋼種です。航空機部品、エネルギー関連装置、精密機械部品で使用され、高い信頼性が要求される用途に適しています。