Welding Distortion
溶接歪み
溶接歪みとは、溶接時の加熱と冷却によって材料が膨張・収縮し、部品や構造物の形状が設計寸法から変形してしまう現象です。板金加工、製缶加工、フレーム製作、配管溶接、ステンレス加工、アルミ溶接など、溶接を伴う多くの製造現場で発生します。
溶接では、接合部周辺が局所的に高温になります。加熱された部分は膨張し、その後冷却されると収縮します。この収縮が部品全体で均一に起これば問題は少ないですが、実際には溶接部だけが強く加熱されるため、周辺部との温度差によって引張・圧縮の応力が発生します。その結果、曲がり、反り、ねじれ、角度変化、寸法ずれなどが生じます。
溶接歪みは、見 た目の問題だけでなく、組付け不良、穴位置ずれ、平面度不良、気密不良、後加工不良、製品精度低下の原因になります。特に精密板金、機械架台、ロボット架台、治具、タンク、筐体などでは、溶接歪みの管理が品質を大きく左右します。
■溶接歪みの主な種類
種類 | 内容 | 発生例 |
縦収縮 | 溶接線方向に縮む歪み | 長尺フレームの全長短縮 |
横収縮 | 溶接線に対して直角方向に縮む歪み | 板同士の幅方向寸法ずれ |
角変形 | 溶接部を中心に角度が変わる | T継手や突合せ溶接の開き・倒れ |
曲がり変形 | 部材全体が弓なりに曲がる | シャフト、角パイプ、長尺部材 |
ねじれ変形 | 部材がらせん状にねじれる | フレーム、架台、箱物構造 |
座屈変形 | 薄板が波打つように変形する | 薄板カバー、タンク、パネル |
溶接歪みは、溶接部だけでなく製品全体に影響します。特に薄板や長尺部品、左右非対称な構造では、歪みが大きく出やすくなります。
■溶接歪みが発生する主な原因
原因 | 内容 | 影響 |
入熱量が大きい | 溶接電流・電圧・時間が大きい | 収縮量が増え、歪みが大きくなる |
溶接順序が不適切 | 一方向に連続して溶接する | 片側に引っ張られ、曲がりやすい |
板厚が薄い | 熱の影響を受けやすい | 反り・波打ちが発生しやすい |
拘束不足 | 治具やクランプが弱い | 溶接中に部品が動く |
溶接長が長い | 収縮する範囲が広い | 全体寸法や平面度に影響する |
部材形状が非対称 | 熱収縮のバランスが悪い | 曲がり・ねじれが出やすい |
材料特性 | ス テンレスやアルミは熱膨張の影響が出やすい | 歪み管理が難しい |
溶接歪みは、溶接条件だけでなく、設計形状、材料、板厚、治具、作業手順によって大きく変わります。溶接後に修正するよりも、設計・加工段階で歪みを抑える考え方が重要です。
■溶接歪みが起きやすい材料
材料 | 特徴 | 注意点 |
SS400 | 一般構造用鋼。溶接性は良い | 長尺物や薄板では曲がりに注意 |
SPCC・SPHC | 薄板加工で使われる | 反り・波打ちが出やすい |
SUS304 | 熱膨張が大きく、熱伝導が低い | 歪みが大きくなりやすい |
SUS316L | 耐食性は高いがSUS304同様に歪みに注意 | タンク・配管で管理が重要 |
アルミ合金 | 熱伝導が高く、溶接条件が難しい | 変形・割れ・強度低下に注意 |
高張力鋼 | 強度が高いが溶接条件管理が重要 | 残留応力や割れに注意 |
ステンレスは鉄に比べて熱膨張が大きく、熱が局所に残りやすいため、溶接歪みが発生しやすい材料です。アルミは熱伝導が高く、入熱管理と固定方法が重要になります。
■溶接歪みによる主な不具合
不具合 | 内容 | 影響 |
寸法不良 | 溶接後に長さ・幅・高さが変わる | 図面公差から外れる |
穴位置ずれ | 溶接収縮で穴ピッチが変化する | 組付けできない |
平面度不良 | 板やベース面が反る | ガタつき、密着不良 |
直角度不良 | フレームやブラケットの角度が狂う | 組立精度低下 |
外観不良 | 波打ち・反りが見える | 製品価値低下 |
後加工不良 | 機械加工時の基準が安定しない | 加工精度低下、余肉不足 |
溶接歪みは、溶接後の見た目だけでなく、次工程の穴あけ、切削、研削、塗装、組立にも影響します。特に機械加工前の溶接構造品では、歪みを見込んだ工程設計が必要です。
■溶接歪みを抑える対策
対策 | 内容 | 効果 |
入熱を抑える | 電流・電圧・溶接速度を最適化する | 収縮量を低減 |
仮付けを適切に行う | 複数箇所を固定してから本溶接する | 部品のズレを防ぐ |
対称溶接 | 左右・表裏をバランスよく溶接する | 片側への引っ張りを抑える |
逆歪みを付ける | あらかじめ反対方向に変形させておく | 溶接後に目標形状へ近づける |
治具で拘束する | クランプや専用治具で固定する |
