超硬溶射
高速フレーム溶射ガンを用いて、超硬合金(タングステンカーバイド)粉末を音速を超える速度で基材に衝突させて成膜する技術です。

超硬溶射とは
超硬溶射とは、高速フレーム溶射ガンを使用して、タングステンカーバイド(超硬合金)粉末を音速を超える速度で基材に衝突させて成膜する表面処理技術です。
この技術により、基材表面に耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性を向上させる硬質コーティングを形成できます。
航空宇宙や自動車産業、工業機械など、多様な分野で活用されています。
ここでは、超硬溶射の仕組みや種類、適用金属、注意点などについて詳しく解説します。
超硬溶射の基本的な仕組み
超硬溶射は、高速フレーム溶射法(HVOF: High Velocity Oxy-Fuel)を用いて行われます。溶射粉末(タングステンカーバイドなど)は、ガス燃焼による高速ジェットフロー内に投入され、高温で加熱されながら音速を超える速度で基材に衝突します。
粉末が基材に固着することで、硬質で高密度なコーティング層が形成されます。
燃焼ガス: 燃料としてプロパン、水素、ケロシンなどを使用。
粉末供給: タングステンカーバイドやクロムカーバイドを主成分とする粉末を使用。
コーティング層: 高密度で低い孔隙率(通常1%以下)の皮膜を生成。
主な加工内容
耐摩耗性の付与: 機械部品や工具の摩耗を防ぎ、寿命を延ばします。
耐熱性の強化: 高温環境下での性能維持。
耐腐食性の向上: 腐食性の高い環境で基材を保護。
表面硬化: 部品表面を硬化させ、高い剛性を実現。
超硬溶射の種類
超硬溶射には、使用する粉末やプロセスに応じていくつかの種類があります。
1. タングステンカーバイド溶射
タングステンカーバイドを主成分とする粉末を使用。耐摩耗性が非常に高く、工具や機械部品に最適です。
2. クロムカーバイド溶射
クロムカーバイド粉末を使用。耐熱性と耐腐食性が求められる用途に適しています。
3. 複合溶射
タングステンカーバイドと金属バインダー(例えばコバルトやニッケル)を混合した粉末を使用。バランスの取れた特性を提供します。
超硬溶射に適した金属
超硬溶射は、以下の金属に対して効果的です。
ステンレス鋼: 耐腐食性をさらに強化できます。
炭素鋼: 機械部品や構造部品の耐摩耗性向上に適用。
アルミニウム: 軽量部品の表面硬化に利用可能。
チタン: 高温環境や耐腐食性が求められる用途に最適。
超硬溶射で対応が難しい金属
以下の金属は、超硬溶射の適用が難しい場合があります。
軟らかい金属(例: 鉛): 衝突エネルギーで基材が変形しやすい。
高合金鋼(特定の種類): 表面処理後の特性変化が予期しにくい。
極薄の基材: 衝撃や熱による歪みが発生する可能性。
超硬溶射の活用例
超硬溶射は、以下の分野で幅広く利用されています。
航空宇宙: エンジン部品やタービンブレードの耐摩耗性向上。
自動車産業: エンジンシリンダーやピストンリングの表面強化。
工業機械: プレス金型やシャフトの耐久性向上。
化学プラント: 腐食性物質に接触する配管やバルブ部品。
超硬溶射のメリット
高い耐摩耗性: 摩耗から部品を長期間保護。
優れた耐熱性: 高温環境でも性能を維持。
耐腐食性の強化: 腐食性環境下での使用寿命を延長。
高密度コーティング: 孔隙率が低く、均一な保護層を形成。
経済的効果: 部品の寿命を延ばし、交換頻度を低減。
超硬溶射の注意点
設備のコスト: 高速フレーム溶射装置が高価である。
熟練した技術者の必要性: 均一なコーティングを得るには高度な技術が求められる。
基材の熱影響: 高温や衝撃により基材が歪むリスク。
前処理の重要性: 表面の清浄化や下地処理が不十分だと、密着性が低下する。
まとめ
超硬溶射は、高い耐摩耗性、耐熱性、耐腐食性を提供する優れた表面処理技術です。
その仕組みや種類を正しく理解し、適切な用途で活用することで、部品の寿命と性能を最大限に引き出すことが可能です。
多くの産業で不可欠なこの技術を活用し、さらなる効率化とコスト削減を実現しましょう。
