Piercing
ピアシング
ピアシングとは、レーザー切断を開始する前に、材料へレーザー光を照射して小さな貫通穴をあける工程のことです。レーザー加工では、いきなり輪郭切断を始めるのではなく、まず切断開始位置に穴をあけ、その穴を起点として切断を進めます。この最初の穴あけ動作がピアシングです。
板金加工やレーザー切断の現場では、ピアシングは加工品質を左右する重要な工程です。特に厚板や高出力レーザー加工では、ピアシング条件が適切でないと、ドロス、スパッタ、バリ、切断不良、ノズル汚れ、加工時間の増加につながります。
ピアシングは、単なる穴あけではなく、レーザー出力、焦点位置、アシストガス、加工時間、材 料板厚を最適化する必要がある高度な条件設定です。
■ピアシングの仕組み
ピアシングでは、レーザー光を材料表面の一点に集中させ、金属を局所的に加熱します。照射された部分は高温になり、溶融または蒸発します。その溶けた金属をアシストガスで吹き飛ばしながら、材料を貫通させます。
貫通穴が形成された後、レーザー加工機はその穴を起点として切断軌跡に沿って移動し、目的の形状を切断します。つまり、ピアシングはレーザー切断における「スタート穴」の役割を持っています。
薄板ではピアシング時間が非常に短く、瞬間的に穴があきます。一方、厚板では材料を貫通させるまでに時間がかかり、熱影響やスパッタの発生も大 きくなります。
そのため、厚板加工ではピアシング条件の最適化が特に重要です。
■ピアシングの役割
ピアシングの主な役割は、切断開始点を作ることです。レーザー切断では、材料の外周から切り始める場合もありますが、多くの部品では内側の穴や窓抜き形状を加工するため、材料の途中から切断を開始する必要があります。その際にピアシングが行われます。
また、安定した切断を開始するための準備工程でもあります。貫通穴がきれいに形成されていない状態で切断を始めると、切断不良や切断面の乱れが発生しやすくなります。
さらに、製品面への影 響を避けるためにも重要です。ピアシング時にはスパッタや熱影響が発生するため、製品形状の外側やスクラップ部分にピアシング位置を設定することで、製品品質を保ちやすくなります。
■ピアシングが必要になる場面
ピアシングは、主に材料の内側から切断を開始する場合に必要です。例えば、丸穴、角穴、長穴、スリット、窓抜き形状、装置パネルの開口部などを加工する場合、まず穴の内側にピアシングを行い、そこから輪郭切断を始めます。
また、外形切断でも、材料の端からではなく任意の位置から加工を始める場合にはピアシングが必要になります。ネスティング加工で部品を効率よく配置する場合にも、ピアシング位置の設定が重要です。
厚板加工では、ピアシング時間が加工全体の時間に大きく影響することがあります。多数の穴がある部品では、穴の数だけピアシングが発生するため、加工時間やコストに直結します。
■ピアシングの種類
ピアシングには、加工条件や設備によっていくつかの方式があります。代表的なものに、通常ピアシング、高速ピアシング、段階ピアシング、パルスピアシングなどがあります。
・通常ピアシングは、一定のレーザー条件で材料を貫通させる基本的な方法です。薄板や一般的な板厚で広く使われます。
・高速ピアシングは、加工時間を短縮するために高出力レーザーを利用し、短時間で貫通させる方法です。量産加工や多数穴加工で 有効ですが、スパッタやノズル汚れが増える場合があるため条件管理が必要です。
・段階ピアシングは、レーザー出力やガス圧を段階的に変化させながら貫通させる方法です。厚板や品質要求の高い加工で使われ、スパッタやドロスを抑えやすい点が特徴です。
・パルスピアシングは、レーザーを断続的に照射して穴をあける方法です。熱影響を抑えながら加工できるため、厚板や高品質切断に適しています。
■ピアシングとスパッタ
ピアシング時には、溶けた金属が上方向や周囲に飛び散ることがあります。これをスパッタと呼びます。
スパッタは、材料表へ の付着、ノズル汚れ、レンズ保護ガラスの汚れ、加工不良の原因になるため注意が必要です。
特に厚板では、貫通するまでに多くの溶融金属が発生するため、スパッタが多くなりやすい傾向があります。ピアシング条件が強すぎると、急激に材料が溶け、飛散量が増えることがあります。
スパッタを抑えるには、レーザー出力、パルス条件、焦点位置、ガス圧、ピアシング時間を適切に設定する必要があります。また、ピアシング位置を製品面から離す、リードインを設ける、保護フィルムや表面状態を確認することも重要です。
■ピアシングとリードインの関係
リードインとは、ピアシング後に製品の輪郭へ入るまでの導入線のことです。
ピアシング直後は切断状態が安定しにくいため、いきなり製品形状の輪郭に入ると、切断面に乱れや傷が残ることがあります。
そのため、ピアシングは製品の仕上がり面ではなく、スクラップ側に設定し、リードインを使って徐々に製品輪郭へ入るのが一般的です。これにより、ピアシング痕や切断開始時の乱れが製品面に残りにくくなります。
小径穴や狭い形状では、リードインを十分に取れない場合があります。その場合、ピアシング位置や加工順序、切断条件を工夫する必要があります。
ピアシングとリードインは、レーザー加工の品質を安定させるうえでセットで考えるべき重要な条件です。
■ピアシングが品質に与える影響
ピアシング条件が適切でないと、切断品質に大きな影響が出ます。まず、ピアシング穴が不安定だと、切断開始時に切断面が荒れたり、バリやドロスが増えたりします。
また、ピアシング時の熱影響が大きいと、穴周辺に焼け、変色、硬化、反りが発生する場合があります。特にステンレスやアルミの外観部品では、ピアシング痕が問題になることがあります。
さらに、スパッタが材料表面に付着すると、傷や突起として残り、後工程で研磨や除去が必要になります。ノズルや保護ガラスにスパッタが付着すると、レーザー光やアシストガスの状態が乱れ、連続加工の品質低下につながります。
そのため、ピアシングは切断の前工程でありながら、完成品の品質に直接影響する重要な加工条件です。
■材料別のピアシングの特徴
鉄系材料では、酸素を使ったピアシングが行われることがあります。酸化反応の熱を利用できるため、比較的効率よく貫通できます。ただし、酸化膜やスパッタが発生しやすいため、後工程への影響を考慮する必要があります。
ステンレスでは、窒素を使った無酸化切断が多く用いられます。ピアシング時も酸化や焼けを抑える条件設定が重要です。外観部品では、ピアシング位置をスクラップ側に逃がすことが基本です。
アルミは熱伝導率が高く、レーザーの熱が周囲に逃げやすいため、安定したピアシングには適切な出力と焦点設定が必要です。条件が合わないと、溶融金属の付着や穴あけ不良が発生することがあります。
銅や真鍮などの高反射材では、レーザー反射や熱伝導の影響が大きく、ピアシング難易度が高くなります。設備仕様や安全機能、レーザー出力に応設定が欠かせません。
■ピアシング時間と加工コスト
ピアシング時間は、レーザー加工のコストに影響します。特に穴数が多い部品では、1箇所ごとのピアシング時間が積み重なり、加工全体の時間が長くなります。
例えば、同じ外形サイズの部品でも、小穴が多数ある設計では、切断距離以上にピアシング回数がコストを押し上げることがあります。厚板では1回のピアシングに時間がかかるため、さらに影響が大きくなります。
コストを抑えるには、必要以上に小穴やスリットを増やさない、可能であれば穴形状を統合する、板厚に対して無理のない穴径を設定するなど、設計段階での工夫が有効です。
ピアシングは目立ちにくい工程ですが、量産加工や多数穴加工では、見積もりや加工時間に大きく関係します。
■ピアシングの注意点
ピアシングで注意すべき点は、まず製品面にピアシング痕を残さないことです。ピアシング部分は熱影響やスパッタが発生しやすいため、基本的にはスクラップ側や不要部分に配置します。
次に、板厚に対して小さすぎる穴に注意が必要 です。小径穴ではリードインを取りにくく、ピアシング痕やドロスが残りやすくなります。板厚と穴径のバランスを考慮した設計が重要です。
また、密集した穴や細いスリットでは、熱がこもりやすく、反りや変形、切断不良が起きることがあります。加工順序や冷却時間、条件設定を工夫する必要があります。
さらに、ピアシング時のスパッタによってノズルや保護ガラスが汚れると、加工機全体の切断品質が低下します。定期的な点検とメンテナンスも欠かせません。
■依頼時に確認すべきこと
レーザー加工を依頼する際は、ピアシング痕が残ってよい場所と、残ってはいけない場所を明確にすることが重要です。外観面、組付け面、シール面、溶接面などでは、ピアシング痕が問題になる場合があります。
また、小径穴、長穴、スリット、窓抜き形状が多い場合は、加工可否や仕上がり品質を事前に確認する必要があります。板厚に対して穴が小さすぎる場合、加工不良やコスト増加につながることがあります。
図面には、必要に応じて「ピアシング痕不可」「外観面傷不可」「バリ・ドロス除去」「穴部仕上げ要」などの指示を記載すると、加工業者との認識違いを防ぎやすくなります。
数量、材質、板厚、表面処理、後工程の有無もあわせて伝えることで、適切なピアシング条件と加工方法を選定しやすくなります。
■まとめ
ピアシングとは、レーザー切断の開始時に材料へ小さな貫通穴をあける工程です。切断開始点を作る重要な役割を持ち、丸穴、角穴、スリット、窓抜き形状など、材料の内側から切断を始める場合に必要になります。
ピアシング条件は、切断品質、ドロス、バリ、スパッタ、加工時間、コストに大きく影響します。特に厚板、多数穴、外観部品では、ピアシング位置やリードイン、レーザー条件の最適化が重要です。
高品質なレーザー加工を行うには、単に切断形状だけでなく、ピアシング痕がどこに残るか、スパッタをどう抑えるか、後工程に影響しないかを考える必要があります。
ピアシングはレーザー加工の品質を左右する基本工程です。設計段階から穴径、スリット幅、リードイン、仕上げ条件を考慮することで、品質安定とコスト最適化につながります。
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